前回のコラムで自然災害に触れました。その後も台風21号を含め様々な自然災害が発生しています。被災されました方々におきましては心よりお見舞い申し上げます。当法人も台風21号の影響で、建物の一部損壊や車両の破損等の影響に見舞われました。台風21号上陸時はグループホーム2棟が停電となり、幸い夢二色のライフラインには影響がなかったため、入居されている方につきましては夢二色に避難し生活を持続することができました。
台風の影響で我が家も停電となりました。2日程で復旧したので比較的早い方ではあったのですが、不思議なことに道一本隔てた向かいの住宅街では停電が発生してから3時間程で復旧していました。以前、『23年前に学ぶ』でもご紹介しましたが、阪神淡路大震災の時は神戸に住んでおり、断水や停電等の被災生活は体験したことがあります。その当時は全域が被害に合ったのに対し、今回の台風では一部だけが被害という私にとっては不条理極まりない気持ちでいっぱいでした(配電等のシステムで仕方ないのはわかりますし、もちろん電力会社の方々が不眠不休で作業されていたことにも感謝をしています。反面、なぜうちの区域だけ電気がつかないんだ!という思いになったのも事実です)数メートル先では煌々と灯りがついているのに、自分の家ではいつ照明がついて冷蔵庫が復活してくれるのかがわからない状況が延々と続きました(中の食材は果たして・・・)子どもと散歩しながら「この辺りは電気がついているからうちもそろそろやね」ときわめて平然を装いつつ、内心は「今晩電気来んかったら、暑いやろな~。Wi-Fi使えへんの不便やし。ホンマどないなってんねん」と思っていました。嫁さんから「○○ちゃんのママから『うちは電気ついたよ』ってLINEきた」と聞き、そろそろうちもか!と期待が膨らむも叶わず、いつ復旧するのかわからないことに対する苛立ちと不安・・・
ふと思いました、知的障がいの方や発達障がいの方ってこういう状況が毎日続いているのではないかと。わからないこと(停電)が発生し、それがいつ解決(復旧)されるのか目途が立たない生活、言い換えれば『見通し』が持てない生活が日常的になってしまっているということを。例えばこれが具体的に「○月△日の午後□時に復旧しますよ」とあらかじめ知らされていれば、不安はかなり軽減されると思います。これが「復旧は未定です」と言われると先行きの見えない不安がより駆りたてられてしまいます(今回の台風の場合は被害があまりにも甚大なので、こう答えざるを得なかったのですが)我々支援者側も実はご利用者に対して不安を駆りたてるような応対を知らず知らずのうちにとっているかもしれません。安心してもらうための存在のはずが、かえって不安材料を与えている場合もあります。発達障がいの方にとって「ちょっと待って」より「2分待って」の方がわかりやすいのはこういうところなのかもしれません。また答えが明確な方が「仕方ない、我慢するか」とか「あと○日やからそれまであれをこれだけ準備しておこう」等自分を落ち着かせたり、計画が持てたりします。しかしゴールが見えなければこのような心理状況にはなれないですし、予定も立てられないと思います。確認の多い方がいらっしゃいますが、不安感情も関係しているのかもしれません。日常的に不安が強いと自信も持てないでしょうから。
また我々は災害に直面するにあたって、わからないながらも必死で情報を得ようとします。台風の予測進路やライフラインの復旧状況をテレビやラジオ、インターネット、場合によっては風のウワサ等も使って情報を得ようとします。情報を得ることで状況を改善したり、備えたりとできる限り良い方向に持っていこうとします。しかし視覚障がいの方や、聴覚障がいの方では情報の取得方法に一部制限がかかったり、場合によっては得る手段すらない方もいます。音声情報や筆記等その方に合わせた情報の提示が必要となります。これは災害時だけではなく、我々の日々の業務にも言えることです。その方に合わせた支援を構築するには、障がい特性とそのご利用者個人の視点で考えなければなりません。これが個別支援の基本だと思います。
台風の話題になると、どうしても暗い話ばかりになってしまいます。しかし新しい発見もありました。日常とは違う夢二色での避難生活の中、お好み焼きやホットケーキを店員の如くきれいにひっくり返す方、普段はあまり動かない方が手回しの充電器にハマって他のご利用者の携帯の充電を行っていたり、中にはホームより夢二色での避難生活の方が楽しい!とおっしゃる方もいてびっくりしました。以前ホームでハミガキを拒まれていた方がカードを使った取り組みを行い、スムーズにハミガキをされるようになりました。その方が場所や生活リズムが変わってもカードをお渡しするとハミガキを始められたので、本当に定着されたんだなぁと思いました。そして何より感動したのが、避難を拒んでいらっしゃった方が毎日楽しみされている新聞を見た瞬間、いつものホームでの過ごし方そのものに戻られたのを見て、『好きなことがあるって本当大事やなぁ』と改めて感じました。